依頼者 妻 八重子(57)
対象者 夫新太郎(60)ダンス仲間の未亡人信子(50)全員仮名
調査目的
夫の浮気調査
相談概要
夫は、ダンス教室で信子と知り合った。二人の仲を町内で知らぬものはない。信子は未亡人で、年齢よりも若く見え男好きのする色白の美人。近所で評判の尻軽女だ。
夫の服装が変わり、生活も活気づいた。夫に、信子との仲を強く抗議したのでダンス教室を辞めたが、ずっと密会が続いている。夫と信子の関係は深まる一方で、邪魔な私を殺そうとしている。古い家にいたとき、女が毎晩、自宅周辺を足音高く歩き回って嫌がらせをするので不眠症になった。精神的に追い詰められて何も手につかなくなった。
隣町に自宅を新築した。おんなは移転先まで追ってきて、二階の夫の寝室に毎晩忍び込んでセックスしていく。二人は結託して一階で寝ている私を殺そうと、蚊取り線香に毒を混ぜてその煙を一階に流し込んだり、霧状にして二階から散布する。私は意識朦朧で呼吸困難になったことがある。
命の危険を感じて、妹夫婦の家に避難して泊まっているが、信子は、妹の家まで来て私を狙っている。深夜、物陰に女の姿を見たので警察を呼んだ。パトカーがサイレンを鳴らしてきたため女は逃げてしまった。雪の降った朝、庭先と付近の畑に何者かが徘徊した靴跡があった。夜、女が家の様子を見に来たのだ。
調査結果
新太郎と信子の密会の事実はなかった。青果市場にアルバイト勤務の新太郎は午後三時にバスで帰宅する毎日だった。依頼を受けたとき、同席した妹夫婦も八重子さんの話を肯定していたので、内容は信憑性が高いと判断したのですが結果は空振りでした。
探偵の眼
私に訴える依頼者の表情は、怯えて落ち着きがない(被害妄想の相談者は一様に誰かに付け狙われているように、びくびく、キョロキョロ周囲を見回し、電話のベルが鳴ると飛び上がって驚く)。何日もお風呂に入ってないようで、肌はカサカサ、髪の毛はバサついて目はうつろ。睡眠不足が続き、精神も肉体もボロボロという感じ。訴える内容は支離滅裂で神経症になっている人特有の言動のようです。
夫は定年退職して心機一転、ダンス教室に通った。服装も変わり躍動的になった夫の姿に邪推した妻。夫の変身に妻は疎外感を持っのでしょうか。生活慣習の変化(夫のダンス教室)、生活環境の変化(自宅新築)、住居の変化(引っ越し)などが重なり、奥さんのストレスは強かったと思います。
教室のメンバーに聞くと、新太郎と未亡人は意気投合して楽しくダンスの練習をしていただけでした。噂を聞いてこっそり教室を見に行ったら、二人が楽しそうに踊っている姿を見てしまった。奥さんは疑心暗鬼になり、ノイローゼ状態に陥った。夫は妻の精神の異変に気が付いて、ダンスを辞めて元の家庭人になっのは立派でした。しかし、奥さんの不安神経症、強迫観念の強い強迫神経症は日増しに悪化するばかりで、神経科に入院したとの風聞がありました。
外出を咎める妻を罵倒したり、わざと着飾って嫉妬心を煽り、楽しげに趣味のスクールに通う夫たちがいます。今回の事例に似た中高年の婦人の相談がとても多くなりました。
依頼者の新築自宅を検証
依頼者夫婦が「新築した家に深夜信子が忍び込んで、二人が私を殺そうとしている」という、家を調べた結果、「毒を混ぜた煙を焚いている」のは、新築した場所が雑草地なので周辺に除草剤をまき、害虫を駆除するため殺虫剤を散布したり一晩中蚊取り線香を焚いていただけ。「夜中に、信子が夫の寝ている二階に忍び込むミシ、ミシ」の音は、新築のため柱・廊下などの木材が乾燥してひび割れる音であり、「天井からパラパラと散布される、毒粉」は、柱・床板などに塗る「砥の粉」が乾燥して浮き出たものでした。
しかし、被害妄想を軽んじてはダメです。妄想者が攻撃に反転して殺人事件を引き起こす悲惨な報道が多くなりました。
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