婚姻生活そのものがストレス
依頼者 妻 伊藤公子(58) 対象者 夫 伊藤一樹 (62)無職 人物 仮名
相談概要
夫が交際している女は誰? 子供は夫の子か、女の連れ子か?
これからどんな人生になるにしても、実態をしりたい。何を考えているのかわからない、つかみどころのない無口で冷淡な夫。「何か話すことはないのですか」と、会話を誘うと「別に何もない」と吐き捨てるように言うだけ。夫は56歳で希望退職した。夫が現役の時はダム工事現場に長期単身赴任が多く、現地で自炊生活の時付き合っていた女がいた。結婚してから現在まで、夫から給料とボーナスをいただいたことが無い。私の実家の母親の援助で生活してきた。
「家庭に給料を入れないならどうして家庭を持ったの?」と、質問するとすごい形相で殴られ、それ以来怖くて夫を怒らせるような言葉は使えなくなった。結婚してから事あるたびに、「出ていけ!」と言われたが、3人の子供から父親を失くするのが不憫で我慢してきた。会話もなく無視されつづけ、気に入らないと食事もせず、近所から弁当を買ってこれ見よがしに食べることも度々。私の姿を見ると何が気に入らないのか、舌打ちしたりため息をついて、家の中の空気を一層憂鬱にする。
今になって考えると、早いうちに離婚して母子家庭になっていた方が良かったと後悔ばかりしている。子どものため、と耐えてきたが、子どもは冷酷な父親にまったく馴染まず高校を卒業してみんな外に出てしまった。
今日まで父子の対話どころか、父親を憎悪しているのが分かる。
私が帰宅すると不在の時がある。無言電話があり、あいては私の様子をうかがっている。子どもたちは、「親父に女がいると思う」といつも言っていた。
ある日、夫が墓地を買う話をしたので、「自分の墓は自分で買う」と反発した。「わたしが死んだら夫のお墓にだけは入れないでほしい、一生のお願いだから。」と、子どもたちに遺言した。空虚なだけの人生だった。死んでからもこんな夫と墓に眠るのはまっぴら。
生活費の苦労、女のこと、何年生活しても心の隔たりは埋まらず、今日まで我慢してきたがもう精神的に限界なので、はっきりさせて生き方を決めたい。
調査結果
省略
探偵の眼
夫の単身赴任時の浮気事件。給料、ボーナスを渡したことのない金銭への執着。出ていけ!となじられ、無視され、舌打ちされ続けた精神的暴力の日々。対話のない冷え切った家庭。奥さんの心の平安はなかったですね。
同じような環境の中年女性の相談が目立ちます。今日まで子どものためと頑張ってきても依頼人の年齢になると緊張していた神経も体も限界にきて、崩れてしまうのでしょうか。
主人が定年の生活に入ると、昔のいやな思い出(心の傷)がよみがえり、夫の在宅が倍加して負担になるようです。「今までの人生は虚しすぎた・・・」静かにため息をついて空をみつめる姿が痛々しいです。このご婦人は、ストレスに満ちた結婚生活でした。
下記の表はアメリカの精神科医トーマス・ホームズが、日常生活で経験的にストレスをもたらすと考えられる出来事とその度合いを発表したものです。43項目からなりそれらの項目は難度により0~100生活変化単位に採点されます。
合計を計算し、1年間で300点を超える場合は、ストレスに関する病気にかかる危険は大きく、150点であれば生活上の変化は少なく、ストレスに負ける危険は小さいとされています。
項目 採点 項目 採点
配偶者の死 100 離婚 73
夫婦の別居 65 留置場などへの拘置 63
近親者の死 63 自分のけが・病気 53
結婚 50 失業 47
夫婦仲の回復 45 退職・引退 45
家族の病気 44 妊娠 40
性生活のトラブル 39 家族がふえる 39
再就職 39 家計状況の変化 38
親友の死 37 転勤・配置転換 36
配偶者との意見の不一致 35 200万以上の借金 31
借金返済できず 30 昇格または降格 29
子供の自立 29 親戚・姑などとのトラブル29
個人的な成功 28 妻の就職・退職 26
進学または卒業 26 生活環境変化・新築改築 25
生活習慣が変わる 24 職場上司とのトラブル 23
勤務時間・労働条件変化 20 住居の変化・引っ越し 20
学校生活の変化 20 余暇の過ごし方の変化 19
宗教の変化 19 社交・交際の場が変わる 18
200万円以下の借金 17 睡眠環境の変化 16
家族団らんの変化 15 食習慣の変化 15
長期休暇 13 クリスマス・新年 12
些細な法律違反 11
熱烈な恋愛の末の結婚・・・結婚したとたんに夫(妻)が変わってしまった、という話はよく聞きます。最近、離婚うつという心の病があるのはよく知られたところで、70点はわかりますが,結婚生活のストレスが50点なのは要注意です。結婚生活を始めるにあたっては、いろいろな環境の変化がともなうのであてはまる項目はいくつも出てきますね。特に女性の場合は、たとえば「生活慣習の変化」「引っ越し」「姑などとのトラブル」「性生活のトラブル」「妊娠」「退職」「睡眠環境の変化」など、結婚を機に退職して不慣れな家事をすることになり、退職しないとすると一人前の仕事をして、二人前の家事をすることになりますね。肉体的にも精神的にも結婚はストレスがたまるのです。
結婚は、他人との生活です。幸せなはずの新婚生活は、一緒に暮らすことで束縛や不自由さを感じる夫人もずいぶん多いのです。
「夫の暴力」「異性関係」「飲酒癖の悪さ」「精神的虐待」「浪費癖」「異常性格」「生活費を渡さない」「過度の宗教活動」などは、結婚して初めて分かることが多いので、結婚イコール「クライシス」(危機、重大局面)と言われるくらい結婚は文字通り、人生で迎える分岐点なのかもしれません。
実例があります。
青年医師と結婚して、皆から祝福され幸せの絶頂であるはずの妻が新婚一カ月で、実家に逃げ帰ってきて、その若妻から生活用品の引き取りを依頼されたことがありました。生活用品を取に行くと、青年医師から妻あてに渡すよう分厚い封書三通を預かり、その手紙を若妻に読ませてもらいました。
青年医師は、妻の新婚旅行中の態度、例えば荷物のカートをボーイに運ばせたとか、リゾートホテルでのリッチな立ち振る舞いは僕の感性になじまない。浴室に一時間以上も入っていた。髪の毛にカールを巻く時間が一時間かかった。化粧を落としてベットに入った心境が理解できないなどと批判し、一カ月の新婚生活の食卓、買い物、入浴の時間の長さ、就寝時の姿、日常生活全般、衣裳、装飾品、態度、言葉使いなど身にまとうもの、家庭生活言動のすべてにわたって、清貧に生きてきた自分とはかけ離れている。もっと質素、倹約に努力してほしい。一カ月の新婚生活で常に沈んだ、疲れたようすが見受けられたが、もっと快活にくらしてほしい。
妻と、実家の家風の相違と批判を便箋50枚にわたって書き綴られていた。妻は、結婚後に手足に発疹が現れたため、実家で少し休養するつもりだったが、この手紙を読んで「この人とはとうてい暮らしていけない」と離婚を決意しました。
トーマス・ホームズのストレス・スコアで計算すると、この新婚妻のストレス・スコアが病気誘発ラインに達しています。
夫たちは結婚すると、「実家・両親、兄弟・姉妹、親戚、学歴、会社、職業、同僚、友達、経歴、性格、嗜好、容姿」等の自分自慢を縷縷展開します。
婦人たちは、この夫の「自分自慢と家風、性格の押し付け」が耐えられないくらい嫌だった。と告白します。反面、妻の人格、親、姉妹、家風、友達などは無視か軽視されています。これでは妻の結婚生活のストレスは高まる一方ですね。性格の不一致が原因で離婚に至る夫婦は見事なほど類似点が多いのです。
探偵事務所を訪れた妻から、夫の浮気調査を受けるときに夫が不貞をしているか、依頼者の被害妄想なのではないかをまず見極めることにします。次に、調査が必要であると確信が持てた場合、その調査を効率よく行うため(的を絞る)、結婚してから相談に来るまでの日常の生活状況を話してもらうことにしています。 職業 年齢 勤務先 業務内容(事務系・現場職・外勤)出勤・退勤時間 通勤手段 帰宅時間 休日の過ごし方 家庭内の言動 趣味 遊興 金遣い おしゃれ度 夫婦生活について 妻子に対する言動 夫に対して不信感を抱いた具体的なこと、など順序立てて聞き取りをしていくと、その夫婦の生活状況がわかり、夫に女性がいるかどうかほぼ見当が付きます。
依頼者は、こっそり収集したコンビニやレストランの二名様と表示されたレシート、プリクラのツーシヨット、手帳に記されたデート日をスマホで隠し撮りなど数々の「物証」を展示して説明を始めます。
浮気相手が、「風俗や水商売の女なら許せる」といい、「人妻とバッイチは許せない」と憎悪むき出しになり、「独身女性の場合が一番ショック」と、異口同音の回答です。
依頼者は、私との対話に安心した表情をうかべて今までに夫から受けた仕打ちや、結婚生活の苦悩を涙ながらに訴えてきます。二人の出会いから始まり、新婚当時、出産育児、舅姑、夫の家庭環境、夫の親族、夫の経歴、人柄、思想、人格、性質、宗教、夫婦の間に秋風が吹き始めた原因、心を閉ざした原因、家庭内別居状態になった時期、など夫婦の生活の記を延々と語るのです。
依頼者の結婚生活の聞き取りのメモ集があるのですが、どの依頼者も結婚生活で悩むキーワードをまとめてみました。
浮気 メール モヤモヤ 顔色 素朴な疑問 健康状態 睡眠不足 優柔不断退屈 表情 不安 悶々 性格 隠し事 小遣 育児疲れ 家庭を顧みない 複雑 近所付き合い 人間関係 不公平 ごたごた 態度の急変 考え事 疲れたの連発 無関心 下着の匂い 深夜 酔態 外泊 午前様 金銭トラブル家計 借財 趣味が変わる ウソ 上の空 秘密 言い訳 不信感 違和感
配偶者の不貞は家庭を殺伐とさせてしまいます。