依頼者 井上沙織(42)会社員
対象者 田中寅夫(52)会社員 共に仮名
調査目的
ストーカー対策
相談概要と事件の解説
妻と死別して一人暮らしの田中寅夫はカラオケ教室で井上沙織と知り合った。井上は、夫と子供のいる主婦で田中とドライブやピクニックなどの健康的なグループ交際を希望したが、田中の狙いは井上の肉体だった。
井上沙織は、田中が一流会社の管理職でもあり、紳士的な物腰に気を許して何度目かのデートで肉体関係を持ち、情交中の写真も撮らせた。これが地獄の始まりで、男の異常性格に気付いた井上が交際をやめようとすると田中は豹変した。井上に写真をばらまくと脅し、暴行し、女の自宅に電話をかけ続け、ささいなことで言い掛かりをつけて交際を強要した。果てに、交際中にプレゼントした金品を返せと警察に訴えた。警察が取り合わないと、井上を自宅に呼びつけ、「お前の夫に関係をばらす」と脅して30万円の借用書を書かせた。
この時点で、井上沙織から相談を受けた筆者が田中宅を訪問した。
「井上に個人交渉を止めるよう。これ以上続けるならあなたの行為を会社とあなたの娘夫婦にばらす」と逆に脅し、「30万円の請求は公の場、調停で決めること」と申し入れた。以降、調停終了まで筆者がサポートしました。
調停の結果は末尾に記載しました。
裁判所に提出した陳述書は田中に脅され続けた日常と借用書を書かされた経緯を述べたものです。
この卑劣な男と交際を始めて手が切れるまで4年かかりました。男の「ストーカー気質」がよく現れていて、安易に不倫に走る人妻への警鐘となります。意外にも、探偵事務所には交際中に男にお金を借りたり、情交ビデオを撮影させたりして別れられなくなり、男に脅され続けた人妻からの相談がずいぶんあるのです。
〇〇裁判所 御中
井上沙織
御庁 平成〇〇年( )第 号 貸金返還調停申立て事件について、陳述します。
1 申立人(以下、田中という)とは、平成〇年にカラオケ教室で知り合い交際を始めた。
2 平成〇年のある日、田中宅で性交中の撮影を許した。
3 以後、田中は会うたびに体を求めたり写真を撮ったりするので、「こんな関係ではなく、ハイキングやドライブなどアウトドアの健康的な交際をしたい。それができなければ別れる」というと、田中は激怒し「お前の写真は、何枚でも複写できる。この写真を家の郵便受けに入れてやる。会社、自宅付近にばらまいてお前が家にいられないようにしてやる。」と脅された。それ以来、写真の存在が怖くて田中の要求に無抵抗になった。
4 こうして交際を続けたが、田中の性格的な執着性、嫉妬、虚言癖、侮辱的言動によってわたしは精神的に疲れ果て、また、田中が人目を避けることもなく堂々と会社や自宅近くで待ち伏せするようになったので、別れようと決心した。
〇日、田中宅から帰る際、次回の約束を拒否すると、押し倒して性交を強要した。抵抗すると覆いかぶさり顔面を拳で殴打し組み伏せられて性的暴行をうけた。
5 この行為を許せず、病院で暴行による診断を受けて警察署に行き、ストーカー被害の相談をした。
担当は島田刑事(仮名)です。傷害事件にしたくない旨をお願いして、「男に付きまとわれ交際を強要されているので、交際を清算したい」と申告した。
島田刑事は田中を警察署に呼んで、「井上沙織が交際を清算するといっている。今後付きまとわないように」等、注意してくれた。(ストーカー規制法による 警察署長の警告)。
6 それから2年数カ月、田中から干渉が途絶えていたが平成〇年〇月〇日、田中から「お前を詐欺で訴える」と突然電話が入った。この日以降、自宅と職場に頻 繁に電話が入るようになり、「あんな暴行の診断書は何の証拠にもならない」「警察のストーカー警告はもう終わった、あんなのは何でもない」、「お前いま誰と付き合つているのだ。いままでの不倫交際を旦那に言うぞ。お前は売春婦だ」などと言い続けた。
7 またある朝、自宅に電話で「お前を横領、偽証、名誉毀損で訴える。」というのでその理由を尋ねると、「3年前、東京で行われるカラオケ大会の旅費1万円をお前の口座に振り込んだ。その大会は中止になったのに、旅費を俺に返還しないから横領だ」。「3年前俺の暴行事件を警察に申告した内容に誤りがあるので偽証だ」。そして「二人の秘密の不倫関係を他人に相談したので名誉毀損」ということです。
〇日。「田中から横領や名誉毀損の相談を受けたが事件性がないので取り合わなかった。」と警察署から電話があった。
私は、田中の嫌がらせがあまりにもひどいので、過去のことが夫に分かっても構わないと思い詰め、まず田中の職場の上司に相談するため面会の予約を取った。
このことを島田刑事に報告すると、「あのような男だから、そのことで奴が会社を辞めるようになったら何をされるかわからない。刃物で刺されたら大変だよ」と忠告されたので怖くなって田中の上司との相談を断った。
8 〇日。島田刑事から、「田中が署に来て旅費1万円と、いままでにプレゼントした金品を返してほしいと言っている」、「それから、井上さんに今後付きまとわないように厳重に注意しておいた」と電話があった。
私は、交際中にもらったネックレス、靴、バックを郵便小包で返却、旅費は書留で送ったが受取拒否で返戻された。
9 〇日から〇日。田中宅を訪問して旅費を返そうとしたが、受け取りを拒否され、知人に同行してもらっても受け取らなかった。
10 〇日。田中宅3度目の訪問。この日はどうしても旅費を受け取ってもらいたくて家の中に入った。田中は酒を飲みながら穏やかな様子で話をしたので、安心したが途中から体を求められ拒絶すると組み伏せられた。前回殴られ暴行を受けた苦痛がよぎり、抵抗を諦めて暴力的に犯された。行為が終わった後、田中は泣きながら「すごく好意をいだいている。もう一度交際を続けてほしい」と言った、これを断ると態度が急変して殴打された。
11 田中からの電話。「あなたとの紛争を弁護士に相談した。相談料30万円支払ったのでその分を返せ」と、訳の分からない言い掛かりをつけてきた。それから、会社と自宅に電話で同じことを言われ、「横領と名誉毀損で訴える」と脅された。仕方なく、田中宅を訪問して話しあった。「相談料をどこの弁護士に支払ったのか領収書をみせて」というと、「領収書はなくした。返済は気持ちでいいから俺の言うことを聞くか。今夜お前の家に行って旦那にばらす。旦那も支払い義務があるのだから」などと脅された。恐怖心で一杯になり、支払いの一筆を書かなければ無事帰れそうもない。会社にも自宅にも電話するというし、私は早く田中宅を立ち去りたい一心で、30万円の借用書を書いたのです。
調停結果
無理やり書かせられた30万円の支払いは到底認めることはできないが、交際中にいろいろお金を使わせたことは事実であるため、10万円の支払いでこの男と縁が切れるならと考え、調停の10万円支払いの和解案に応じた。代わりに、付きまとい行為を止めるよう条件を和解条項に記載させた成果は大きかったです。
以下は、調停条項です。
1 相手方(井上沙織)は申立人(田中寅夫)に対し、本件和解金として、金10万円の支払い義務のあることを認める。
2 当事者双方は、当事者間の男女関係が終了したことを確認し、本日以降、お互いに一切交渉を持たないことを確約する。
3 当事者双方は、本日以降互いに双方の相手方の名誉、信用を毀損するような一切の言動及び行動をしないことを確約する。
4 申立人と相手方は、当事者間に本件条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。
以下、略
この男女の別れについて、男女関係がもつれた場合に学ぶべきことが多くあると思います。
男女の別れは、総じて、女性の方が(別離の前の悩みはおおきくても)別れを決意したあとの実行・心の清算が早くてスパっと別れられるのに対し(そのようにみうけられます)、男は、この事例にあるように未練たらしく泣いたり脅したりネチネチします。今回の事例の田中みたいに交際中に消費したお金の返還を求めるのを始め、恥も外聞もなく二人だけの秘密を公開するのも男です。同棲中に使った俺の年金を返せとか、女にプレゼントした下着のリストを作成して返還を迫った男もいます(プレゼントしたお気に入りの下着が見当たらないので、他の男宅に置き忘れたと邪推したらしいです)(爆)。
「覆水盆に返らず」です。壊れてしまった女心は戻らないことを肝に銘じて恥の上塗りはやめたほうが男を上げます。
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