watanabe
依頼者 西野由紀子(30)会社員
対象者 西野一郎(65)無職
調査目的
父、一郎の行動調査
相談概要
一郎の娘、由紀子 談。 地方公務員の父は10年前に妻を亡くした。真面目一筋で働き、定年退職後、母のいない寂しさを紛らわすために居酒屋通いとパチンコ店の常連となった。
近頃、金遣いが荒くなった。時々女から電話がかかってくる。遊んで帰る夜の帰宅が極端に遅くなった。服装に無頓着だった父が真新しい流行りの衣服を着用するようになった。浮ついた日常が気にかかり父の預金通帳を見ると、300万円、300万円、400万円と立て続けにおろしていた。まとまったお金をどこに使ったのか問い質したところ、「株式に投資している」との答え。どこの銘柄なのか、どこの証券会社と取引しているのか聞くと、言を左右にする。しばらく冷戦状態が続いたあと、父は「飲み屋で中年の女と知り合った。女は、俺と一緒になって老後の世話をしてくれる、と言ってくれた。しかし、『同居している息子がサラ金に追われていて、あなたに迷惑がかかるから当分会わない方が良いと思う。
一生懸命働いてサラ金問題を清算するまで待って』と言うので、母子が愛おしくて借金分300万円を女に渡した。しばらくして、『別れた夫に復縁しょうと付きまとわれているので完全な手切れ金が必要』というのでその300万を渡した。さらに、『実は、あなたと知合う前に複数の男性と交際していた。その人たちと交際を絶つために清算金400万円が必要。清算ができたらあなただけに尽くしたい』と言うのでそれを信じて渡した」。
このまま続くと、その女に父の退職金を全部貢がされ、そのうえ土地建物も担保に入れて借金されそうです。父の交際している女の素姓を調べてください。このままでは女のために破産しそうです。助けてください。
調査結果
西野一郎と居酒屋を出て、自宅に帰る女を尾行してアパートを突き止めた。アパートに駐車していた女の車の番号から、住所・氏名。住民票から戸籍を入手して身元を割出した。女は、山田真理子(50)といい、未亡人で子供はおらずアパートで1人住まいしている。
女の氏名・住所・生年月日を元に「サラ金リスト」を入手した(個人情報保護法制定以前は、「データ屋」に問合せると、銀行・サラ金の残高、借入状況、勤務先名、固定・携帯電話番号の所有者住所氏名、勤務先などほとんどの個人情報を入手できたが現在データ屋は存在しない)。
女を数日尾行した結果、居酒屋、パチンコ店で中高年の男性に声をかけて誘い食事したりカラオケに行ったりしたあとラブホテルに入った。女が狙い定めた中高齢者は必ず女の誘いに乗った。女は年齢に不相応な衣装をまとい、厚化粧、ネックレス、イヤリング、指輪などで満鑑飾にして男にしなだれかかって街中を歩く。すれ違って振り向く男女の失笑など意に介さない。
パチンコ店の常連さんと、カラオケ店の受付さんに被害事情を説明して女の事を尋ねると、「あのエロ気違いババアは、毎日男漁りしている。あんな化け物にカモにされるスケベ爺さんも多い。」と、女に対する反感も露わな回答を得た。
山田真理子があちこちで熟年男性に声をかけている場面、男性とレストランで食事しているところ、男性の車に乗る場面など複数の男性とのッーショット写真集、真理子に子どもが存在しない戸籍謄本、サラ金地獄の状態がわかるサラ金リスト(アコム・アイフル・武富士などの借入金額、返済状況、残高などの一覧)を依頼者由紀子さんに渡した。
依頼者は父に探偵の報告書をみせると「騙されてたのか・・」と深く悔いて娘に謝ったが、詐欺で女を告訴しても「あの女からお金は取り戻せない」とあきらめたという。
探偵の眼
古狐の老人狩りターゲットにされて、高くついた定年後の社会勉強でした。「女性免疫のない仕事一筋人間」にすり寄る不良女狐が爪を磨いて狙っています。
過日、NHKのクローズアップ現代で高齢者の「婚活」を放映していました。恥も外聞もなく結婚相談所主催の見合いパーティに嬉々として参加している老男女をみると、先ごろの筧千佐子(68)という化けそこないの女狐に財産と命を奪われた高齢男性が7人とも11人ともいわれる事件がうなずけます。
筧千佐子の周囲で不審死を遂げた夫や内縁の夫が次々と出てくると、マスコミは「底なし沼の様相になった」「内縁関係の被害者が続々と出る可能性がある」(捜査関係者)、と報じた。
高齢者・資産家で独身をターゲットにした「後妻業」という再婚を生業とした本まで出版される時勢になりました。ネットで、筧千佐子に関して「女性は最後に売るものがあるから・・・普通の寂しい男どもはコロリといくだろうねー」のコメントが的を得ています。
筧千佐子事件は世の独身高齢者に多くの教訓を与えたのを機に、25年も前の西野一郎さん父子を思い出して記事にしました。
依頼者 妻 内山千恵(60)
対象者 夫 内山健三(63) 仮名
調査目的
夫の浮気調査
相談概要
夫は、大手家電メーカーを定年退職しぶらぶらしている。夫が、どのような女と付き合っているのか知りたい。結婚当初から女遊びが絶えず、今も、女から頻繁に電話がかかってくる。この女たちは何者なのか知りたい。家にいるとき、車の中、庭先、寝室、風呂、トイレ、何処にいるときも電話のコードレス子機を持ち歩き(注・携帯電話が普及していない当時の事)、「ヒソヒソ」とやさしい見たこともない口調で女と話をしている。深夜密かに、女子高校生や若いOLのアダルトビデオを見ている。
金銭は主人が管理して、私は生活費として毎月5万円だけしか貰ったことがない。とても足りないので、ずっと働きづめで生活を支えてきた。夫の給料、ボーナス、退職金はいくらもらったかとうとう教えてくれなかった。繰り返す浮気と度が過ぎたケチな夫に抗議して数回家出してビジネスホテルに泊まったが、子どもが可哀そうで戻らざるを得なかった。そのたびにほくそ笑む夫に憎悪が募った。ケチなくせに自分ではパチンコと女に1カ月30万~40万円使う。冷蔵庫のお菓子、アイスなどを私か子どもが食べると「誰が食べた!」と大騒ぎする。子どもも呆れて、冷蔵庫のものを食べるとき「これは親父のか、お袋のか?」と確認して食べる。
夫は、東北地方の貧農の出身で小さい時東京へ出て、職人の弟子をしてずいぶん苦労したらしい。大きくなったら「いろいろおいしいものを食べたい」願望を持っていた。にもかかわらず、私が食卓に色々なおかずをそろえると、「何でこんなに贅沢するんだ。誰のお金で買ってきたのだ!」と怒る。子どもを可愛がらなかった。私と子どもは、いつも不機嫌そうな夫の顔色をうかがいながらびくびく生活してきた。夫と子どもはもう何十年も口をきいたことがない。
夫を紹介されて結婚する時、どのような人か良くわからず躊躇していると叔母から、「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」(馬のよしあしは乗ってみなければわからないし、人の良し悪しは親しく付き合ってみなければわからない)、ことわざを聞いて決心したが、今思うととんでもない駄馬に乗ってしまった。息子と私はこの難破船のような家から脱出する覚悟ができている。
若いときはPTA役員、最近は団地の町内会長などをして、地区の功労者面している偽善者の本性を暴いて、いやな思い出ばかりが残るこの家を出る。去るにあたって積年の恨みを晴らす。
調査結果
対象者は、テレフォンクラブ(注・インターネットが普及する以前、男女出会いのツール)のBIP会員(援助交際などを求める女性が、テレフォンクラブにかけた電話が、男性会員の自宅に転送される仕組みになっている)。対象者は常時コードレス電話(子機)を使用するので、無線機で会話内容が傍受できた。
以下はその会話内容(女の声は省略)
1 今日は休みなの? あそぶ? 何時頃いいの 10時頃・・じゃあまたね T駅に待ってる?はい、わかった。郵便局まえの電話ボックスのところで お金?3万円でどお? じゃあ。
2 もしもし はい、こんにちは。今どこから電話しているの? いくつ? ぼく、ちかくにいるんだけど おじさん。おじさんではダメ? ダメ? 年はいくつ? 学生なの? どこ? 今? どこがいい Y町にきてくれる? お金? 5万円あげるよ・・あのさ 〇〇あるでしょう 〇〇で会おうか え? それならそこへ行くよ あなたの・・・病院?病院の駐車場がいい・・? はいわかった じゃあ3時に待ってます
電話傍受で女と会う場所が分かったので、その場所に急行して張り込み開始。対象者が待つ病院の駐車場の車に未成年の看護学生が乗り、車は郊外のラブホテルに入った。3時間後ホテルを出た車は、病院の近くにある看護学生寮に女性を送った。
探偵の眼
ある日、「地区の一住民」の差出人名で、「内山健三の正体」というビラが撒かれた。数日間にわたって録音した、健三と女たちの「援助交際の交渉」テープも同封されていました。奥さんはその騒動に乗じて弁護士さんに依頼して離婚を成立させました。慰謝料、財産分与など想定以上に獲得しました。岐路に立った依頼者は積年の恨みを晴らしました。
依頼者 東條小百合(28)OL
対象者 山下啓二(30)自称・演劇研究生 仮名
調査目的
携帯番号の所有者・住所の確認
相談概要
その男性と出会い系サイトで知り合った。「体調が悪いので治療代を貸して」と言われ、亡き父親の相続金のうちから、治療費と演劇稽古代として合計1000万円渡した。徐々に連絡が取れなくなって不安。騙されているかもしれないので、携帯番号から相手の身元を調べてほしい。
東條小百合のメモ
〇日 Y公園駐車場で男と待ち合わせて初デート。男は自称、東京の劇団所属の演劇研究生と言うだけあって、全体にあか抜けている。こちらから東京の劇団教室に通っているとのことだ。男は、「稽古のストレスが原因で肝臓が悪くなり長期休暇中」とのこと。「実家は貸マンションを数棟と有料駐車場を所有する資産家。僕はいま父親に勘当されている。その父親が病気で先は短い。そうなれば自分は実家に入って遊んで食べていけるので、舞台俳優になるまで稽古に打ちこむことができる。貴女と結婚を前提に真面目な交際をしたい」。
〇日 2回目のデート 食事、ドライブ、車内での抱擁のあと男は小百合につぶやいた。「治療費と薬代、保険が使えない特別な治療をしている。明日支払日なので貸してくれませんか。僕の銀行預金はあるけど、定期預金にしているためおろせない。必ず返します」。200万円渡す。
〇日 ホテルで性交中に急に元気がなくなって、「体調が悪くて・・・金が続かない。週に一度、治療費を支払わなければならないので貸してください」。200万円渡す。
〇日 「誰にも知られたくない、あなたと会うための部屋を借りて静養したい。今までの分と一緒に返しますのでお願いします」。100万円渡す。
〇日 「あなたは命の恩人です。母親にあなたのことは伝えてあります。体調がよくなったら、結婚してください」。200万円渡す。
〇日 「大変なことになった。劇団の俳優研修費を未納にしていたら、今月中に一括納入しなければ除名処分の通知が電話であった。除名されたら私の劇団俳優としての将来が絶たれる。どうか助けてほしい。300万円渡す。
12月31日を最後に、電話もメールにもでなくなった。小百合は詐欺に会った気持ちが過ったが、相手は結婚の約束までしてくれた資産家の息子だ。最初から警察沙汰にはできない。出会い系で知り合った人に騙されたので恥ずかしくて誰にも相談できない。メールがつながる状態なので督促を始めると、「必ず返す。」「病院で治療中。」「病院を追い出される。」「死んでお詫びする。」と、言い訳ばかり。
以下は、月に1回入った男からのメール。
1月 吐血して入院しました。なかなか出られなくてすみません。2月 体調が悪くて何時退院できるかわかりません。3月 (小百合)お金返してほしい(男)それでは返します。(小百合)では、10日までにお願いします。(以降、また連絡が取れなくなった)。4月 病気休暇を取っていたのですが所属の劇団が破産しました。いろいろ忙しいので送金することができません。(小百合)倒産した劇団の名前教えてください。(男)今はムリ。落ち着いたら教えます。5月 退院してとりあえず就職しました。いま仕事で大阪に来ています。これから送金します。6月 就職した会社の社長が自殺したので送金が少し遅れます。貴女に送金する様に、友達に通帳と印鑑渡しておきました。待ってください。
以下は、小百合の強い口調の督促に対する、男の返信。
×日 連絡遅くなりました。わかりました。今病院なので!! ×日 恐れ入ります。今病院なので終わり次第連絡差し上げます。×日 なかなか連絡を入れられなくてすみません。ただ今病院なので終わりましたら連絡差し上げます。返済するのは当然です。間違いなくお返しいたします。×日 ご連絡遅くなりすみません。ただ今体調不良のため治療中です。終わり次第連絡いたします。×日 返済は、知り合いに頼んでおります。病院なので何度も連絡が取れないので。×日 携帯音の鳴りすぎで没収されていました。知人にいつ送金したのか確認しておきます。
以下は、すべて、「友達が送金したかどうか確認を取る」「送金を依頼した友達が印鑑と通帳を持って逃げてしまった」と一点張り。言い逃れできなくなると、「自分の命で償う」と言い訳。男が追い詰められていく心理状態。
〇至急確認します。〇確認の連絡待ちですお待ちください。〇連絡が未だありません。仕事中だと連絡が付かないので、夜に連絡れてみます。〇連絡が取れないので確認次第。〇いま連絡取っています。少しお待ちください。〇携帯を病院に預けられていました。連絡はあったのですが、また取り直してみます。〇いま連絡を待っています。あまり頻繁に携帯が鳴ると没収されてしまうのでお待ちください。〇私の責任です。私にできることは私自身で償うことしかありません。〇連絡はあったので送金の話をしておきました。また、没収されていたので・・このままだと本当に追い出されます。そうなると多分長くは生きられません。〇こちらも大至急連絡を取ります。〇全額振り込むように頼みました。いま、病院を出される話になりましたので。〇わかりました。鳴りすぎると本当に追い出されます。死んでしまいます。〇送金は明日の午前中と話しておきました。〇先ほどから入れているのですが連絡が付きません。つき次第連絡します。〇友達が通帳を持って逃げてしまいました。迷惑かけているのはすべて私の責任です。申し訳ございません。私自身をもって償わせていただきたいのですが。
調査結果と対策
携帯電話番号から男の住所氏名が判明した。依頼者が男に、「あなたが使用していた他の2本の携帯も、二人の女性の住所氏名が分かった。あなたの実家も、わかった。警察に告訴する」とメールを入れた。
男は、「会いましょう。会ってください。二人だけで大事な話をしましよう。借用書も書きます。」と1日何十通のメールが入る。身元がバレた男はかなりあわてている。小百合は全く無視して、「一括返済。期限は二日。」、「あなたの名前は岩下哲三、住所は〇〇。他の2本の携帯の所持者は女性ですね。」「探偵が動いています。もう止めようがありません。」とメールを入れると、翌日、全額銀行振り込みしてきた。
探偵の眼
「実家は資産家」を装って近づき、結婚話をエサに体の関係を持ち、お金を借りる手口は結婚詐欺師の常套手段です。男が使用した携帯電話の2本の所有者は二人とも風俗の女性でした。男は風俗女性のヒモだったのです。男は、住所氏名と実家を暴かれたうえ、「愛人二人に事実を暴露されたら大変」と狼狽したと思えます。小百合さんは探偵の指示通り、「会って大事な話をしましょう、借用書も書きます」の老獪な手口を無視して、「現金一括支払いでなければ警察に告訴する」と、主張を通したことが肝でした。
出会い系の詐欺の予防対策は、相手の情報(車の登録番号、運転免許証、勤務先、携帯番号)などをひとつでも多くメモしておくことです。彼方と交際している男が、詐欺師かどうかチェックの資料として、メールで送られたサギ男の言動を克明に表示しました。
依頼者 夫 加藤秀樹(43)証券会社 A支店勤務
対象者 妻 加藤春子(39)証券会社 B支店勤務 夫婦とも仮名
調査目的
妻の行動調査
相談概要
証券会社勤務の妻は、定期監査とか残業、社員の歓送迎会などの理由で毎日帰宅が目立って遅くなった。私と出勤・退勤時の車の同乗も拒むようになった。日曜日も何も言わないで出かけるようになり、言い争いが絶えなく、夜の夫婦関係もなくなった。近所の婦人が私の母親に、「春子さん顔つきも服装も変わったね」と心配そうに言う。
何かおかしいと思い、何が原因なのか話し合うと、「あなたとは合わないものがある、と感じるようになった」といわれた。ある日、電話連絡もなく夜中に帰宅したので問いただしたところ、「子どもをおいて家を出ていく」と言いだした。
妻との会話はほとんどなくなり、帰宅は一層遅くなった。友達と食事やお茶をしていたといってタクシーで深夜に帰宅する。何か変だ、との疑惑が一層増すばかりだが、それは漫然としていて自分でもはっきりしない。付き合っている男でもいるのか、と思っても確信は持てなかった。漫然とした疑問が確信へと変わったのが、妻の自動車事故だった。「夜中に、居眠りして電柱に激突し、後ろから走ってきた知らない人に病院へ運んでもらった。」と、後日妻の説明だ。事故現場が自宅近くなのに、30㌔も離れた病院に入ったことに疑問を感じた。入院時の状況をこっそり看護婦さんに尋ねると、「会社の同僚の高橋と言う男性が付き添ってきた。」と教えてくれた。
数日後、妻を見舞ったところ、個室のドアを閉め、ベットをカーテンで仕切った中で証券会社のバッチを付けた男とヒソヒソ話をしていた。常識的に考えても、入院女性に対する見舞客の態度ではなくこの時、相手はこの男だと直感した。
今までわからなかった妻の態度の急変は、私や両親への不満が原因なのかと悩み続けたが、男の存在がそれだったので、ある意味納得できた。
退院後のある日、浴室から出た私の姿を見てあわてて携帯の電源を切った。不審に思い、後日その番号を調べると、証券会社の独身寮に入っている「高橋」名義だった。事態は悪化するばかりで、ある夜中に妻から電話があり「今日は泊まる。」と一方的に切られた。
妻の親も同席して話し合っても、「子どもを置いて出ていく」というばかりで、「絶対に家に戻らない」と繰り返す。子どもたちのためにやり直そうと言っても、「私には私の人生がある。離婚することによって周りの人が不幸になっても仕方ない。」と、まるで別人のようだ。
子ども二人に対する態度も一変し、子供も母の変化に気が付いていて、落ち着きがなくなりオドオドしている。もとは、近隣の交際や子供会でいつも中心にいて評判の良い妻だった。家庭第一だった妻が、男で脱線したことが信じ難い。
調査結果
高橋は春子より8歳年下の31歳。退勤後、町の一角で待ち合わせて、高橋の車で隣町のレストラン、居酒屋などで飲食した後、ラブホテルに入るか、公園やグランドの暗がりに車を止めて長時間時を過ごした。間もなく、高橋は他県の支店へ転勤になる。春子は一旦実家に入ったが、高橋のアパートで同棲を始めた。
探偵の眼
加藤秀樹さんの実家は、地元では名の知れた旧家です。その敷地内に秀樹さん夫婦は家を建てて暮らしていた。「家風や環境が重荷だったのかもしれません。私が仕事を理由に家事を怠り、育児、冠婚葬祭などの義理ごと、町内会の交際一切を妻に任せて甘えていた。」と秀樹さんの反省の弁。
この離婚劇は平成元年におきました。その年は「バブル経済絶頂期」でした。その世相を考えれば当事者の迷走ぶりが分かると思います(バブル景気は昭和61年12月から平成3年2月までといわれる)。
以下は、バブル景気の記事の抜粋です。
金融機関の融資は不動産に向かった。投機熱が加速、絵画や骨とう品、特に株と土地への投機が盛んになった。なかでも「土地は必ず値上がりする」「土地の値段は決して下がらない」という土地神話に支えられ、富裕層でない一般人までが転売目的の売買を行い、地価は高騰した。
昭和61年2月にNTTが上場し、株価は2カ月で売り出し価格の3倍に当たる318万円の高値を付け企業・個人が財テクに入り込んでいくきっかけとなった。特定金銭信託ファンドで法人の株式投資を活発化させ、個人投資家の株式投資を誘発した。
バブル期に建設・不動産・ホテル業界は、リゾート地やゴルフ場を次々と開発した。昭和62年にリゾート法が制定され、ゴルフ場、スキー場開発が拡大した。それまで見向きもされなかった土地が相当な価格で取引され土地の上昇に拍車をかけた。ゴルフ場やリゾート施設の会員権価格は高騰した。
加藤秀樹さんと妻春子、高橋という男はバブル景気の中心をなす証券会社に勤務して天国と地獄をみたのです。バブル最盛期の兜町の証券マンは月収1千万円といわれていました。加藤夫婦と高橋はこのバブル景気の恩恵で、かなりの高給を得ていました。それが、妻の離婚決意を押したのかもしれません。
しかし、諸行無常です。
平成2年3月。大蔵省銀行局は金融機関に「土地関連融資に関する抑制について」という通達を出しました。いわゆる「総量規制」です。銀行の貸し渋り、貸し剥がしが始まり、融資を受けていた不動産、建設関連会社の倒産が相次ぎました。これにより、株価は一気に暴落し、企業も個人投資家も大きな損害を受けました。銀行や証券会社の倒産も相次ぎ、土地価格は下落。ゴルフ場倒産、ゴルフ会員権は紙くずになりました。
バブルに踊った企業と個人は地獄を見たのです。
その後の高橋と春子。二人の関係は三年と持たなかった。二人は結婚することもなく別れ、高橋は故郷に帰った。実家で暮らしている春子に当時の面影はなく、白髪も見られ悄然とした姿が痛々しいという風聞。
不倫という甘い蜜に溺れた結果、家庭、職場、人間関係などを失いました。主婦の不倫は、あなたのすべてを失うことになる事を肝に銘じいほしいです。自己責任とは言いえ、春子は大きな代償を払いました。
依頼者 妻 八重子(57)
対象者 夫新太郎(60)ダンス仲間の未亡人信子(50)全員仮名
調査目的
夫の浮気調査
相談概要
夫は、ダンス教室で信子と知り合った。二人の仲を町内で知らぬものはない。信子は未亡人で、年齢よりも若く見え男好きのする色白の美人。近所で評判の尻軽女だ。
夫の服装が変わり、生活も活気づいた。夫に、信子との仲を強く抗議したのでダンス教室を辞めたが、ずっと密会が続いている。夫と信子の関係は深まる一方で、邪魔な私を殺そうとしている。古い家にいたとき、女が毎晩、自宅周辺を足音高く歩き回って嫌がらせをするので不眠症になった。精神的に追い詰められて何も手につかなくなった。
隣町に自宅を新築した。おんなは移転先まで追ってきて、二階の夫の寝室に毎晩忍び込んでセックスしていく。二人は結託して一階で寝ている私を殺そうと、蚊取り線香に毒を混ぜてその煙を一階に流し込んだり、霧状にして二階から散布する。私は意識朦朧で呼吸困難になったことがある。
命の危険を感じて、妹夫婦の家に避難して泊まっているが、信子は、妹の家まで来て私を狙っている。深夜、物陰に女の姿を見たので警察を呼んだ。パトカーがサイレンを鳴らしてきたため女は逃げてしまった。雪の降った朝、庭先と付近の畑に何者かが徘徊した靴跡があった。夜、女が家の様子を見に来たのだ。
調査結果
新太郎と信子の密会の事実はなかった。青果市場にアルバイト勤務の新太郎は午後三時にバスで帰宅する毎日だった。依頼を受けたとき、同席した妹夫婦も八重子さんの話を肯定していたので、内容は信憑性が高いと判断したのですが結果は空振りでした。
探偵の眼
私に訴える依頼者の表情は、怯えて落ち着きがない(被害妄想の相談者は一様に誰かに付け狙われているように、びくびく、キョロキョロ周囲を見回し、電話のベルが鳴ると飛び上がって驚く)。何日もお風呂に入ってないようで、肌はカサカサ、髪の毛はバサついて目はうつろ。睡眠不足が続き、精神も肉体もボロボロという感じ。訴える内容は支離滅裂で神経症になっている人特有の言動のようです。
夫は定年退職して心機一転、ダンス教室に通った。服装も変わり躍動的になった夫の姿に邪推した妻。夫の変身に妻は疎外感を持っのでしょうか。生活慣習の変化(夫のダンス教室)、生活環境の変化(自宅新築)、住居の変化(引っ越し)などが重なり、奥さんのストレスは強かったと思います。
教室のメンバーに聞くと、新太郎と未亡人は意気投合して楽しくダンスの練習をしていただけでした。噂を聞いてこっそり教室を見に行ったら、二人が楽しそうに踊っている姿を見てしまった。奥さんは疑心暗鬼になり、ノイローゼ状態に陥った。夫は妻の精神の異変に気が付いて、ダンスを辞めて元の家庭人になっのは立派でした。しかし、奥さんの不安神経症、強迫観念の強い強迫神経症は日増しに悪化するばかりで、神経科に入院したとの風聞がありました。
外出を咎める妻を罵倒したり、わざと着飾って嫉妬心を煽り、楽しげに趣味のスクールに通う夫たちがいます。今回の事例に似た中高年の婦人の相談がとても多くなりました。
依頼者の新築自宅を検証
依頼者夫婦が「新築した家に深夜信子が忍び込んで、二人が私を殺そうとしている」という、家を調べた結果、「毒を混ぜた煙を焚いている」のは、新築した場所が雑草地なので周辺に除草剤をまき、害虫を駆除するため殺虫剤を散布したり一晩中蚊取り線香を焚いていただけ。「夜中に、信子が夫の寝ている二階に忍び込むミシ、ミシ」の音は、新築のため柱・廊下などの木材が乾燥してひび割れる音であり、「天井からパラパラと散布される、毒粉」は、柱・床板などに塗る「砥の粉」が乾燥して浮き出たものでした。
しかし、被害妄想を軽んじてはダメです。妄想者が攻撃に反転して殺人事件を引き起こす悲惨な報道が多くなりました。
その女性、優子(33)は、私の知合いのA子に連れられて事務所にきた。二人は友達だ。
相談の概要
以下、離婚調停申立てまでは、優子の告白から。優子の愛人の胸に刃を突き立てる事件はA子の説明に基づいたものです。
私(優子)は福島の出身で、こちらで知り合った人と結婚した。現在、町のスーパー勤務。夫は自動車販売店を自営。4歳の男の子と三人暮らし。
結婚して少しずつ、夫の性格の異常さが分かった。最初は、私を心配しての干渉だと思ったがそうではなかった。私が勤務中にたびたびポケットベルが鳴り(注・携帯電話が無い時代)、30分以内に連絡を取らないと帰宅してから「お前は何か隠してる」など、男関係を根堀り葉堀り詮索された。自宅前で仁王立ちになって私の帰宅を待ち、10分でも遅れると夕食を抜かれて深夜までいびられた。買物に出かけていてもポケベルが鳴り居場所の確認をする。人前でバカにされたり、会話はどこでも命令口調で自尊心がボロボロになっていく。ポケット、バックなど中の持ち物を点検し、友だちと付き合うことも制限された。監視癖が異常に強く、見えない檻に監禁されたような生活になった。
最初は精神的苦痛が多かったが、子どもができてから、体に対する暴力が始まった。
ある日疲れていたときに性行為をされた。いやがっていることが夫に伝わってしまい、素っ裸のまま殴る蹴るの暴行を受けた。
持ち物、服装、下着の点検の執拗さは増すばかりで、私の対応が気に入らない(従順でない)と髪の毛を引っ張って引きずり回したり、蹴飛ばしたりする。帰宅が遅れたある夜、いつもと同じ罵詈雑言が始まったため、強く反抗した。その日以来、精神的・肉体的暴力が一層増した。この時期にはっきり離婚を決意した。
夫がある日、「実家へ帰って、子どもをしばらく預けて爺ちゃん婆ちゃんを喜ばしてやれ」と言うので、実家に帰り久しぶりに友達と食事したりして、二日後の夜、帰宅した。少し遅かったが夫は何も言わないのでホッとして風呂に入った。出たところ夫が脱衣所に入ってきて、私の手に手錠をはめた。鳥肌が立った。頭が真っ白になり思考が停止し抵抗できないでいるうち、口にガムテープを巻かれた。
深夜、車に乗せられて山道を走り、市街地から30キロ離れた山中で手錠と口に巻いたガムテープを外して裸のまま放り出され車は走り去った。バス停にしゃがみ込んで通りかかった車に乗せてもらった。私の経緯を聞いた仕事帰りの運転手さんは「それは殺人行為と同じだから」と、警察へ行こうとしたがそれを断ってA子の部屋へ送ってもらった。
A子の機転で、知合いの経営するナイトクラブの寮に入り、クラブで働くこととして、マネージャーが夫の元へ挨拶に行った。
「これから優子さんはうちの商品ですから勝手に連れ出したりしないでくださいね。夫婦の離婚のことは裁判所でやってください。」と凄まれて、夫は反抗できず、調停離婚が成立した。夫の稚拙な、手錠・裸体による懲らしめ行為は、私に離婚というご褒美が転がり込んだ。
次に、A子からの聞き書き。
優子は母子でアパートを借り、もとのスーパーの店員を続けた。客の宮崎と親しくなって愛人となった。宮崎は保険代理店業をしており妻子がいる。前夫のDVから命からがら逃げだした優子は、その反動なのか宮崎に傾倒した。しかし宮崎にとって優子は単なるキープ女だった。宮崎は酒が入ると人が変わる。宮崎はKというスナックの常連で、酔うと店から連夜、優子に電話を入れた。卑猥な話をくどくどつづけ、電話口の向こうから女どもの嬌笑が聞こえ、嘲笑いが漏れたりして、侮辱され屈辱感が一杯になった。宮崎への愛が嫉妬に、そして憎悪に変わるのに時間は要らなかった。
或る夜の電話で、酔った宮崎が優子の女性器の相を冷やかし始めた。優子はバックに包丁を忍ばせてタクシーでスナックKに乗りつけた。ホステスをはべらせている宮崎に突進、包丁を握って体当たりした。二人は重なり合って椅子ごともんどりうって床に倒れた。胸に包丁を突き立てられた宮崎は「グゥ」と呻いただけで絶命。即死だった。優子の報復は達成された。
私は、痴情のもつれ殺人で逮捕され、新聞に載った被疑者名を見て驚きました。DV夫に苛め抜かれやっと離婚して平凡な暮らしをしているはずなのに、スナックで男を刺し殺すなんて・・・。私が面談して離婚調停をサポートした女性と一致できなかった。
A子が預かっていた子を祖母が引き取りに来た。A子にお世話になったことお礼を言って、「優子は男運が悪すぎる。可哀そうな子だ」とつぶやい顔が悲惨だったそうです。
筆者は宮崎と面識があります。好景気の余波で保険成金になり、小さな街中で夜の帝王ぶっていました。母子家庭で必死に生きている優子を愚弄した末に、刺殺されたのは因果応報、自業自得だと強く感じた事件です。
依頼者 夫 (53)地方公務員 対象者 妻 (43)専業主婦
調査目的 妻の行動調査
相談概要
10歳年下の妻は専業主婦で、洋裁の内職をしているような地味な性格なのだが・・。ある日帰宅すると妻が電話で、今まで見たことのないウキウキした(ルンルン気分で)顔で話をしていた。相手は近所の会社員だという。この男は昼勤、夜勤が一週間交代勤務なので、夜勤の週は昼間妻といつでも会える状態だ。私は、精力が旺盛で毎晩求めるが妻は最近夜の交渉を拒むことが多い。
妻とその男の疑惑が払拭できず、出勤する振りをして(妻のすきを見て)裏口から部屋に戻り押入れに隠れて様子を見たり、外出の妻の尾行をしたり、自分で2年間妻の監視を続けた。妻が私の尾行に気付き、夫婦と子ども、私の親、妻の両親を交えて家族会議を度々行うようになった。
妻は「不倫などしていない」と潔白を主張するが、私は信用しない。妻と男は結託して、私の監視活動を見抜いていたので証拠が取れなかった。自分では無理なので調査をお願いしたい。現在私は、妻に進められて心療内科に通院している。
調査結果
奥さんは、近所のスーパーへ買い物と、3キロ先の実家に自転車で出かけることが日課。地味すぎるくらい感じの奥さんで、不倫など無関係の行動パターンだ。疑惑視される近所の男性も、依頼人宅付近にあるコンビニに、たばこビールを買いに立ち寄るだけで不審な行動はまったくない。依頼人の完全な邪推・妄想と断定した。
探偵の眼
依頼人夫婦と、疑惑の会社員夫婦は、食事会、カラオケに行ったり家族ぐるみの交際している仲だ。楽しそうな電話の後、電話の相手は誰なのか問うと「坂本さんの旦那さんよ」。主人はこれだけで二人の関係を疑いだした。家族ぐるみの交際はこのような誤解を生むようです。「おとなしい妻が、久しく見たこともない笑顔で男性と会話していた」。些細な事でも、嫉妬心が生じる人もいます。
実は、近隣に住んでいる男性と妻との関係を疑って(逆のパターンもあり)、嫉妬・妄想の自縛で心の病に陥る夫又は妻たちの数はかなりいると思われ、電話相談だけでも相当数あるのです。中年から熟年の夫又は妻に多いのも特徴です。団地の隣どうし、前後どうしの夫と妻、妻と夫の不倫疑惑に取りつかれた依頼を結構数うけています。特に、独り身の婦人。男やもめの住む家があるとその悩みは深刻です。平安な心で暮らせるよう心がけてください。
今回、調査依頼の男性は、「妻の行動に問題なし」の調査結果に納得せず、妻の監視に専念するため役所を依願退職しました。顔に脂汗を流して目は窪み呼吸は荒く、日増しに心が壊れていく姿が可哀そうでした。
熱油をかけ傷害事件で執行猶予刑で実家に帰っている妻との離婚協議の交渉依頼
依頼者 夫 新田次郎(38)中堅規模の土木建築会社・一級土木施工管理士
相手方 妻 新田幸恵(38)主婦 人物は仮名
次郎さん宅を訪問。コタツで一人横になっていた。温和な笑みで迎えてくれた顔と首回りがケロイドになっていて正視できない。
次郎さんの説明概要は次の通り。
バブル景気で建設業は大盛況で、毎日仕事が忙しく接待もあって連夜の午前様帰宅。土日も仕事に追われ自宅には「メシ・風呂・寝る」ために帰宅するだけ。夫婦生活もほとんどなかった。子どものいない幸恵さんは近隣との交際もなく、市内に友達もいなかった。
「たまには早く帰ってきて」「月に一度の土日くらい家にいて」と妻の願いを聞き入れず仕事と接待の飲食に明け暮れる毎日で、妻が孤立して寂しがり、夫に頼っている気持ちを見抜けなかった。事件後、わかったことだが妻は嫉妬妄想のため抑うつになり心療内科に通院していた。
一匹の猫を抱きながら深夜まで夫の帰りを待っている妻を疎ましくなった次郎さんは、深夜帰宅してケンカになるのがいやで、団地近くの公園の駐車場に車を止めて車中泊を繰り返すようになった。「女と外泊している」と邪推した妻と口論が激化する一方。元来が無口でおとなしい次郎さんは、幸恵さんにキチンと説明しないまま生活態度を改めなかった。そして、それが悲劇につながる。
沸騰した油を夫にふりかける
ある日曜日の朝。次郎さんは居間に寝転んで新聞を読んでいると、幸恵さんが鼻歌交じりで台所で何か沸かしている。笑みも浮かべていたという。次郎さんの頭上に鍋をもって無言で立った幸恵さんは中の沸騰した油を次郎さんの顔面や胸部にふりかけた。
「ギャー!」と叫んで部屋を転げまわる次郎さん。救急車で病院へ運ばれ、幸恵さんは自宅付近を放心して彷徨っているところを警察に保護されたあと逮捕された。次郎さんは一週間意識不明の危篤だったが一命はとり止めた。入院加療の後、臀部と太ももの皮膚を、顔や首、胸部などに皮膚移植して6か月後に退院。
幸恵さんは傷害罪で懲役5年、執行猶予3年の刑の裁判のあと、長野県の実家に帰っている。
長野県某市の幸恵さん宅を訪問。居間に幸恵さんのご両親、兄と妹が卓を囲んで座る。幸恵さんは別室に待機している。新田次郎の代理人としての挨拶のあと、長野県までの道のりにある観光地などを話題にした後、本題に入った。座中に緊張が走る。「新田さんは離婚に当たって何も要求しません。無条件です」とのことばに、座中の気が緩んだ。「奥さん側の言い分をうかがいます」と、私。父親が、「娘があのような事件を犯して、私どもの言い分などあろうはずがない。娘は、世間様に顔向け出来ないので遠方で暮らすことになった。アパート代や生活用品全てを援助するのだが、新田さまから気持ちだけのご援助をいただければ娘は心静かにこの地から旅立てると思います」と申訳なさそうにいう。 私は、新田さんが旅費の一部でも負担してくれる気持ちがあるなら、それは娘の行為を許してくれる証と受け止め、娘が心軽くしてよその土地で暮らせるように計らった親心だと理解した。
加害者側(幸恵さんとその家族)は、被害者に落ち度があったからこのような事件が起こった、と責任転嫁することも想定して話合いに臨んだが、母親はかしこまり、兄と妹も口をはさむことはなかった。父親は中学校の校長を定年退職した人、と次郎さんに聞いていたがその通り家風のよさを感じた。
月曜日に離婚届を役所からとり、幸恵さんの署名押印して新田宅へ郵送し、それが届いたら旅費の一部として金10万円を送金する。と合意して、幸恵宅を辞した。
帰って、次郎さんに顛末を報告。次郎さんから幸恵さんに渡す10万円と生命保険の受取人変更のため、証券と委任状をもらって次郎宅を出た。
四日間、離婚届が届いたとの連絡が無い。五日目の朝、次郎宅へ電話しても出ない。不審に思って近所の知り合いに次郎宅を見てもらうと、「居間に倒れて死んでいる!」と動転した声。次郎宅へ急行すると既に救急車と警察が来ていた。死因は心臓麻痺とのこと。
次郎さんの青森県の実家から両親、兄夫婦がこちらに来て葬儀を行った。ご遺族に、離婚が成立していないので土地建物の3分の2が幸恵に相続権があること。死亡保険金2000万円が受取人の幸恵に入る事を説明した。
次郎さんの兄は「土地建物の相続交渉と売却、保険金の行方などあなたにすべてを任せます」と言って、葬儀が終わると、関係各人に挨拶して帰ってしまった。金欲、物欲のない世俗離れした昔の禅僧みたいな人だ、と感じ入った。
次郎さんの死亡の状況を電話で伝えて、幸恵宅を再訪した。次郎さんの急死は、熱油火傷事件が原因らしいことは承知していた。今度こそ何を言われるのかと家族全員かしこまっていた。
郵便受けに幸恵さんの離婚届の封筒が入ったまま、死亡したので離婚は成立していない。よって、生命保険金を取得し、土地建物の相続権があること説明した。本来なら離婚が成立しており、これ等のものを取得する権利はないが、生命保険金は受取人の幸恵さんの口座に送金するよう手続きを行う。入金された保険金のうち、300万円は幸恵さんがこれから異郷で暮らすための再生資金として差し上げる、1700万円はこちらに返金してほしい。不動産を売却するが、所有権移転の時、関係書類を無条件で提出してほしい。と条件を提示して快諾を得てどちらも早々に実行できた。
次郎さん夫婦は不幸な結末になりましたが、両家の品性の良さに助けられ、後始末は円満な解決ができました。両家が憎み合うことなく和解できたことを次郎さんは喜んでいると思います。
30歳の時ふるさとを出踪、70歳で弟と再会
人物は仮名
大川二郎さん(55)が訪ねてきた。「亡父の遺産を土地区画整理のため市役所に売ることになった。兄、一郎は35年前勤務した証券会社で不祥事をおこして出踪し、以来今日まで全く消息不明である。相続手続きのため兄を探してほしい」とのこと。さらに事情を聞くと、「集金したお金の使い込みが発覚して逃走した。お金は親が弁償したので会社から告訴されず懲戒解雇ですんだ。警察に行方不明届をだしておびただしい数の行路病死者の情報も該当がなかった。30歳の時の事件で生きていれば65歳になる」という。戸籍も、住民票も当時のままで調査の手がうてない。相続手続きができず、不在者財産管理人の申立てを家庭裁判所で行い許可を得て役所との売買契約を済ませた(出踪宣告の方法もあるのだが、死亡扱いになって戸籍上から抹消されるため家族が難色を示した)。
継続して一郎さんの所在調査を依頼されたため、一年に数回、戸籍と住民票を取得して移動状況の点検を続けた。5年目に大川一郎さんの本籍と住民票が、福井県某市某町の市営住宅22号3番に転出していることが判明した。
依頼者の二郎さんに「未だ喜ぶのは早い、現地で本人確認の必要性がある」ことを告げた。つまり、裏世界では故郷を離れて暮らす浮浪者の戸籍が売買されていること。その利用目的は戸籍を買った人間が本人に成りすまし、金融機関との取引や、自分の身分ではあらゆる審査が通らない、過去の経歴に難点ある人間の不正使用が横行している現況を説明した。
わたしは福井県の当地を尋ねた。同行した女性スタッフが、市営住宅の聞き込みをおこなった。女性は好奇心が旺盛であり、対面する相手方も警戒せず話に乗ってくれるので「聞き込みは」女性が適任なのだ。年配の男女数名から概要次の回答を得た。
「その奥さんの旦那さんは数十年前に病死した。いつのまにか今の旦那さんがあの部屋に住むようになった。もう30年以上も前の話だ。奥さんは和服の似合う色白のきれいな人で、小料理屋を経営しとったが、最近は店を閉めて自宅に居る。旦那さんは市内の建設会社に勤めておったが数年前に退職して自宅に居る。夫婦とも物静かな人で、会うと必ず挨拶をしてくれる、律義な人だ。夫婦仲がとてもよくて、最近は車を買って二人で買い物やドライブにでかけている」と、住民はこの二人に好意的であることが伝わる。私は依頼者の人柄を知っているので、その兄(であろう)一郎さんの評判の良さがすぐに理解できた。
一郎さんが庭先で黙々と自転車みがきしている姿を目撃できた。
依頼者に現地訪問の状況を説明すると「その人は長兄に間違いありません」と確信をもって答えた。早速、二郎さん夫婦と姉らは現地に向かった。以下は二郎さんが、一郎さんと40年ぶりに再会した状況と、一郎さんが語った生活史です。
当日、ドアの前に立った三人は、「何市の大川二郎です」と名乗ると中の住人は無言で静かにドアを開けた。一目で双方は兄弟であることを認め抱き合って泣いた。落ち着きを取り戻すと、一郎は、「証券会社の不祥事を起こして、地元にいたたまれなくなって飛び出した。この40年間みんなに迷惑と心配をかけて申し訳ありません」と三名に詫びた後、部屋の隅に座っていた女性を紹介した。
以下は、一郎さんの言
故郷を出奔して東京に出たが、知人に必ず出会うだろうと思い、あてもなく福井県に流れ着いた。高度成長の時代だったので住み込みで働ける会社はいくらでもあった。私は30才だったので事務系の仕事にも就職できたが、あえて建設業の現場職を選んだ。仕事が終わると、この女性が経営している小さな居酒屋で静かに酒を飲むことだけが楽しみだった。この女性は私より10才年上なので、2年ほど通ううちに安心して身の上話をするようになった。
間もなく、この女性の旦那さんが亡くなった。しばらくしてから、この人は「私の借りてる住宅に住んでよい」と言ってくれたので同居させてもらった。当時、ここの住宅の人たちは私が住んでいることを全く知らなかったと思う。月日が経ってもこの人は、店でも、この住宅でも私の身の上を一切話さず守り通してくれた。私が今日まで無事に生活できたのはこの人のおかげだ。
この人も私も老いた。この女性にいままでお世話になった恩返しに車の運転免許証を取って、買い物や観光をさせたくて住民票を故郷からここに移した。もし、私が先に亡くなった場合は保険金の受取人になってもらうため、まもなく入籍する予定でいた。戸籍と住民票をここに移動したため、故郷の誰かが気付くことは承知していたが、このまま死んでしまったらこの人に申し訳ないと思い、新戸籍の作成・住民票の移動を実行した。
みんなと会えてうれしいが今更故郷には帰れない。この人とこの地で人生を全うしたい。
一郎さんの奥ゆかしい人柄がつたわる生活史でした。
我がままを押し通して、老妻を心身ともに疲れさせてしまう。老妻に感謝やいたわりの言葉をかけることなく経年とともに心の病におちていくご婦人の相談が気にかかる昨今です。
近年、老夫のつまらない妄想や嫉妬で老妻を殴り殺す事件。堪忍袋の緒が切れて老妻が老夫を殺害する事件が多発しています。
大川一郎さんと年上の女性の生きざまに学ぶべきことがあります。
今回は、探偵冥利に尽きる仕事でした。
依頼者 木村真理子(53) 対象者 奈美子(35) 仮名
調査目的 ストーカー対策
相談概要 あとで女の名前などが分かったのですが、奈美子という女から、執拗にストーカー攻撃をされている。女は外見おとなしい感じだが、異常性格者だと思う。
最初の被害は、庭先に止めてある私の車の屋根に小石などが数個のっていた。近所の子供のいたずらだと思っていたが、日増しに置くものが大きくなり、こぶし大の石やレンガ、棒切れなどがボンネットに乗せられるようになった。フェンダーミラーが割られ、ボディも傷つけられた。しだいにエスカレートしてフロントガラスを5回も割られた。
ある夜、ガチャンと大きな音で外に飛び出すと、門扉が引き倒されており車が走り去った。私が目的なのか、家族のだれに恨みがあるのか見当がつかない。この行為をしている者の執念深さに気味が悪くなった。
ある夜勤の深夜の休憩時間に会社の窓から駐車場を眺めていると、黒装束の人間が駐車場に入って一直線に私の車に進んでいくので、「車がやられる」と直感し、同僚に警察を呼ぶように頼んで駐車場に走り、私の車を石をもって壊そうとしている女を突き飛ばし、あおむけに倒れた女を馬乗りになって取り押さえた。女は間もなく急行したパトカーに連行された。
署内で女は、「知り合いが夜勤かどうか駐車場に入っただけ、何もしていない」の一点張りで、警察は「被害も証拠も何もないから」とのことで不問にした。警察が教えてくれた女の身元を夫に知らせると、夫の職場で10年前まで働いていた部下と言うことが分かった。夫の白々しい説明を聞いていると、夫と女は不倫関係にあったと確信した。いままで得体の知れない誰かに攻撃され続けた恐怖はとりあえず終わった、と思った。
しかし、女の攻撃は激化するばかりになった。1日50回以上の無言電話が自宅に入る。ベルが鳴っても無視すると、近所の家に電話をかけて(電話帳が公衆電話ボックスに置いてある時代)、「木村さん宅の電話が故障でつながらない。奥さんに急用ができたので呼んでほしい」と、取次を依頼し、呼び出されていくとツーツーと切れている。この呼び出し電話を地区の全戸にかけられた。事情はどうあれ「夫婦が女に恨まれるようなことをしたから」と言わんばかりで近隣の人たちの冷笑と失笑が悔しい。
息子の会社にも電話を入れ、自宅近所の家へ私の誹謗中傷の電話。幼稚な文言を1~2行書いたハガキが毎日職場と自宅、近所に届く。女は、私の何に対して逆恨みしているのかわからないが法律など意に介さない執着心と執拗なエネルギーが空恐ろしい。
探偵の眼
ストーカーは取りつく相手に姿を見せないで、一方的に行為を執拗に繰り返すことが多いようですが、この女は身元が割れても爆発的なストーカー行為を継続しています。よほど相手(木村真理子さんの夫)に恨みがあったのでしょう。元上司の妻に逆恨みしたのか、元上司に間接的な嫌がらせで復讐心を達成しているのかは定かでありません。
当時、上司は妻帯者で部下の女は独身で不倫交際していて別れたと推測します。別れにはそのカップルなりの別れ方があるはずです。ただ、多くの場合、弱者の立場にある女性に恨みを買うような、禍根を残す別れ方だけはルール違反です。
この二人の場合、女が別れを決めたのではなく男が一方的に決めたと思われます。不倫は原則自己責任の考えでいくと、女は捨てられて泣くことがあっても自分の立場をわきまえなければなりません、(男が女性に独身を装って近づいたり、妻と離婚することを匂わして交際を続けるなどは別問題です)。しかし、10年も復讐心を持ち続ける異常さはよほど屈辱的な別れ方をしたのだと思わざるを得ません。
依頼者(妻)が受けたストーカー行為を取り上げました。夫が弄んだ女から、何の罪もない妻がストーカーなどで恐怖にさらされることは、探偵をしていると多々見受けます。
妻帯者は、独身女性と不倫交際したあと女性の意に沿わない別れを強行すると、本人や妻子にリバウンドがくるかもしれない警告のため古い日記を開示しました。